被曝地に人を留め、汚染瓦礫を拡散する国 東京電力・福島第1原発事故(第205信)


すでに「取り返しのつかぬ今」を
もはや「取り返しのつかぬまま」見据えながら、
それでもなお、あの愚者たちに殺されないために……


被曝地に人を留め、汚染瓦礫を拡散する国

——山口泉・デュッセルドルフ講演『福島原発事故と、その現状——核破滅ファシズムの国・日本から、残された世界を防衛するために』〔7〕





 福島はむろんのこと、東京すらチェルノブイリ基準に照らして「移住の権利」が生じているというのが現在の日本の状況です。

 当然、子どもは真っ先に避難させるべき、そうした地域に、しかもなお子どもたちを含む人びとは留め置かれているわけですが、逆にそこから他の、かろうじて深刻な被曝をまだ免れている地域へ、政府や地元市町村が積極的に送り出そうとしているものがあります。

 それは何か? 
 汚染瓦礫です。

 地震と津波によって生じ、その後の原発事故で放射能に汚染された大量の瓦礫です。
 にもかかわらず、その放射能基準は政府によって勝手に80倍にも引き上げられ、その結果、〝基準値を下回る〟ものとされているのです。

 しかし実は、それら被災した地域の人たちも、この瓦礫が他の地域に拡散することを本当は望んでいるわけではありません。
 その理由は、いろいろありますけれども——かなり切実なものの1つとして、被災されてまだ見つかっていない方がたの遺体やその一部が、そうした瓦礫には含まれているという理由もあります。
 またもちろん、瓦礫が送り込まれる先の方がた、地元の市民も多くが反対しています。

 にもかかわらず、それぞれの為政者とそれに追随する一部の人びとのみが強引に、こうした汚染瓦礫を拡散してきているのです。
 どうしてこのような異常なことを、日本の政府や自治体はするのか? 

 一般的にはその理由は瓦礫の移動に伴う「利権」が目的だと言われています。
 しかしながら私は、必ずしもそれだけが理由だとは思いません。そこに日本という国の特殊な状況があります。

 それはまだ汚染されていない地域をも、福島をはじめとする地域と同じように汚染しようという欲望――。
 そうすることによって、1つには、福島でこれから発生してくるであろう被曝による障害を隠蔽しようとする意図があります。

 もう1つは、日本の国土から汚染されていない地域をなくすことで、人びとの被曝地から脱出しようという「希望」を奪おう、ということです。
 実に陰湿な日本の政治風土の反映だと思います。

 しばらく前に、東京電力自身が発表した数値ですが、福島第1原発は、放射性セシウムだけで毎時1,000万Bq、1日あたり2億4,000万Bqという膨大な放射性物質を飛散させていることが確認されました。

 そうした状況で、たとえば東京で電車を乗りますと、若者たちがマスクもしないでマンガ週刊誌を広げて、食い入るように読みふけっています。
 東京の繁華街、渋谷や新宿の交差点の巨大な液晶スクリーンに国民的アイドルグループのパフォーマンスが映し出される下を、人びとは放射性物質を浴びながら黙黙と歩いています。

 深い諦めと未来への根拠のない希望的観測、そしてあらゆる権力に対する絶対的な受動性……。
 今の日本は、そういうものに浸された地獄だ、と言っても過言ではありません。

                          〔以下、続稿〕


 
【付 記】

〔2013年1月18日/
 ドイツ、ノルトライン・ヴェストファーレン州デュッセルドルフ市、バッハ・シュトラーセ145、ビュルゲンハオス・ビルクにて〕

  ドイツ語通訳:巽レリ玲子 
  文字起こし:鈴木昌司
    (IWJサイト http://iwj.co.jp/wj/open/archives/54301 より) 
  文字起こし監修:山口泉(Copyright)








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by uzumi-chan | 2013-09-25 23:41 | 東京電力・福島第1原発事故

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