日本人が最初に弁えるべきこと ——〝朝鮮半島、緊張〟の報に


『生き抜くための省察録』から

日本人が最初に弁(わきま)えるべきこと

  ――〝朝鮮半島、緊張〟の報に


夜の言葉〔第016葉〕




 このかんの朝鮮半島の緊張を憂慮する声が、私のもとにも届いている。

 ——以下、本稿は事態の緊急性に鑑(かんが)み、「未定稿」としての部分を含みつつ、取り急ぎアップロードする。
 したがって、その細部に関しては今後、若干の補訂が生ずる余地がある。だがむろん、論旨の大筋には異同はない。

 よりによって安倍軍国主義ファシズム政権が〝安保法制〟を強行成立させようとしている、そのさなかのこうした展開に、私自身、さまざまな可能性は思い、また懸念せざるを得ない。
 昨夕のNHKニュースは、朝鮮民主主義人民共和国軍の分列行進の資料映像を流す一方、野戦服に身を包んだ朴槿恵(パッ・クネ)・大韓民国大統領の映像を報じた。
 胸を塞(ふさ)がれる思いがする。

 こうしたとき想起するのは、2010年11月のことだ。

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                             (写真撮影・遠藤京子)


 畏友の画家・全情浩(전정호=チォン・ヂォンホ/1960年生)の個展『庚戌國恥(キョンスルクッチ)100年企画招待展』(ロッテ百貨店ギャラリー)のオープニングに出席、盟友の李相浩(이상호=イ・サンホ)と併せて、私が「光州民衆美術」の不動の「原点」と目する優れた画家の展覧会を寿ぎ、錦繍の全羅南道(チォルラナムド)で光州(クワンヂュ)民衆美術の画家たちと旧交を温めて東京に戻った、その日に——延坪島(ヨンピョンド)への砲撃事件が勃発したのだった。

 驚いて急遽メイルを出した私に、彼地の友人からはこんな主旨の返信が届いた。

 《私たち韓国の人びとは、これまでにも、こうした事態を何度も経験しています。ですから今回も落ち着いて対処し、危機を回避するでしょう》

 その静かな応答に、粛然たる思いがした。
 南北分断も在日の現状も、その歴史的責任は一義的に日本にある——。

 ただ今回の場合、さまざまな意味で2010年とは状況が異なる。
 なかでも重大な要素の1つ——もしかしたら最大の悪条件かもしれないのは、「戦後」日本における最悪の軍国主義ファシズム政権の姿勢だ。
 事態を平和裡に収束させようとする上で、これはいかなる意味でも、なんらプラスには作用しまい。

 「国際政治」のさまざまな暗部を予測しつつ、状況の推移を注視し、危機を防ぎ止める声を上げなければならない。
 この事態に際し、事態の根本の責任を一顧だにすることなく、「南」「北」いずれに対しても、その〝濃淡〟の差はあれ奇怪に歪んだ「揶揄」や「憎悪」の表情を伴わせたしたり顔で語ることしかできぬ日本人がいるとすれば、その道義性・倫理性の根本的な欠落に深い憤りを示さざるを得ない。

 自らは安倍政権を〝批判〟しているつもりの〝進歩的知識人〟のなかにも、日本人としての根源の歴史的責任を弁えぬ没主体的人格が少なからず存在する光景は、このうえなくおぞましい。

 繰り返す。
 南北分断も在日の現状も、その歴史的責任は一義的に日本にあるのだ。
 いやしくもその「主権者」たる立場を、いまだなお剥奪されていない以上**、私たちは戦争を防ぎ止め、東アジアの緊張を緩和することに日本が寄与するよう、声を上げ、働きかけつづける「義務」を負う。


  このとき、同展に関連して私が書いた主な文章には、以下のものがある。
 『苦しみさえも美しい画布——美術の戦士・全情浩の弁証法的画業に寄せる7章』〈日韓2箇国語/韓国語訳=稲葉真以〉(『庚戌國恥100年企画招待展/全情浩「朝鮮のあさ」展』図録/2010年11月、大韓民國光州廣域市ロッテ百貨店ギャラリー刊)
 『日本の罪科を静かに問う、清冽な怒りの絵画——「庚戌國恥100年企画招待展」全情浩『朝鮮のあさ』紹介』(「週刊金曜日」2010年12月10日号)
 『百年の果てに開花する、真の「藝術」の救済力——「光州民衆美術」の21世紀的現在/「庚戌國恥100年企画招待展」から』(「図書新聞」2011年2月19日号=3002号=8面全)


 ** また、もしも剥奪されたなら、それを奪還するため、抵抗する。当然のことだ。
 それがたとえ、実は真に自分たち自身の手で闘い取ったものではなかったとしても——。ならば、今度こそは、真に自分たちの手で闘い取りなおすために。






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by uzumi-chan | 2015-08-22 15:49 | 【C】夜の言葉

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